医療的ケア児とは?定義・現状・支援法について

医療的ケア児とは?定義・現状・支援法について

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医療的ケア児とは、新生児集中治療室(NICU)などに長期入院した後、たんの吸引や経管栄養、人工呼吸器の装着など、医療的なケアを日常的に必要とする子どもを指します。医療技術の進歩に伴い、こうした子どもの数は増加しています。これにより、社会全体での支援が求められる状況が生まれています。本記事では医療的ケア児の定義から日常生活、法律の枠組み、そして支援の現状まで詳しく説明します。

医療的ケア児とは

医療的ケア児の定義

医療的ケア児とは、痰の吸引や経管栄養、人工呼吸器の装着など、日常的に何らかの医療的ケアを必要とする18歳未満の子どもを指します。たとえば、先天的な障害や長期のNICU入院歴がある場合、退院後の生活でも継続的な医療行為が必須となるケースが多いです。こうした子どもが医療の進歩によって救命される機会が増え、その結果、自宅や学校で継続的に医療ケアを受けながら生活できるようになっています。

現状と背景

医療技術の向上に伴い、出生直後に重篤な状態だった子どもでも、適切な治療を受けることで生命を維持できる例が増えています。一方、自宅退院後は家族にとって大きな負担が生じやすく、日々の痰の吸引や人工呼吸器の管理などが欠かせません。2005年頃には医療的ケア児は約1万人とされていましたが、2021年には2万人を超えるとの推計もあり、今後も増加が見込まれています。これは医療システムの進歩にともなう「在宅医療」の拡充の側面を示す一方、学校や保育施設での受け入れ体制、家族支援、地域格差など、課題も複合的に顕在化しています。

医療的ケア児支援法とは

医療的ケア児支援法とは、医療的ケア児とその家族がよりよい支援を受けられるように定められた法律です。家庭や教育現場だけでなく、地域社会全体が協力してサポートを行うための枠組みを明文化しています。ここでは、法律が制定された背景と主な内容を見ていきます。

制定の背景

医療的ケア児支援法が制定された背景には、医療的ケアが必要な子どもを取り巻く環境の不備がありました。たとえば、保育園や学校での受け入れ体制は自治体や施設によって差があり、必要な看護師の配置や補助員の確保が十分でないケースも存在します。また、家族への心理的負担や経済的負担が大きく、その支援策が地域によってまちまちであったことも課題でした。これらの課題を解決するために、行政や医療機関、教育機関が一体となって支援できる法的基盤が求められ、2021年に成立したのが医療的ケア児支援法です。

法律の主な内容

医療的ケア児支援法には、以下のような支援策が盛り込まれています。

  • 保育・教育現場での体制整備
    保育施設や学校における看護師や支援スタッフの配置を促進し、安全に医療ケアが行える環境を整えています。

  • 相談窓口の設置
    各自治体に相談窓口を設け、医療的ケア児の家族が抱える悩みを気軽に相談できる体制が設けられました。相談員には医療職や福祉職、保健師などが配置される場合もあり、家族のニーズに合わせたきめ細やかな対応が可能です。

  • 在宅医療・福祉サービスの充実
    訪問看護や短期入所サービスなど、家庭の負担を軽減するための制度が法整備によって拡充されました。家族が安心してケアを行えるように、地域の福祉サービスとの連携が推進されています。

医療的ケア児の日常生活

医療的ケア児の日常生活では、家庭での医療機器の管理から通園・通学先でのサポートまで、多岐にわたる支援が必要です。ここでは、家庭内での具体的なケア方法や負担、学校や地域での支援体制を詳しく見ます。

家庭での支援体制

在宅での生活では、たんの吸引や人工呼吸器の管理、経管栄養チューブの交換など、専門的なケアが求められます。これらは医師や看護師の指導のもと、家族が習得して行う場合が多いです。しかし、24時間体制でのケアが必要となるケースも少なくなく、家族の睡眠時間や就労環境に大きな影響を及ぼします。これに対応するため、訪問看護を利用する家庭が増えており、定期的に看護師が訪問して子どもの状態をチェックし、必要な処置を施したり家族の相談を受けたりする体制が整いつつあります。

家庭の経済的負担

家庭では、医療機器のレンタル費用や消耗品の購入費用などがかかる場合があります。医療保険制度や自治体による助成制度を利用できるケースもありますが、まだ地域差があり負担軽減の仕組みが十分ではないと感じる家族もいます。支援法の整備や市町村単位の独自の補助金制度の拡充によって、今後はさらに経済的支援が充実することが期待されています。

学校や地域での支援

医療的ケア児が通う学校では、看護師の配置や特別支援学級への入級など、個々の状態にあわせた対応が求められます。しかし、受け入れ体制が十分でない場合には家族が付き添うケースも多く、保護者が働きに出られない状況が続くことも課題です。自治体によっては、子どもの通学時にヘルパーを派遣したり、スクールバスに看護師が同乗したりする取り組みが進められています。

地域では、医療的ケア児とその家族を支える支援センターの設置が増えてきました。そこでは、医療だけでなく福祉や教育の専門家も一体となり、子どもの生活全般をサポートします。短期入所施設やデイサービスの利用によって、家族が一時的に休息をとれる仕組みも徐々に拡大しています。

医療的ケアの種類と実例

ここでは、医療的ケアの具体的な種類と、それがなぜ必要とされるのかを把握することで、医療的ケア児の生活のイメージをより明確にします。また、実例として統計的なデータや背景要因にも触れ、社会全体での理解を深めます。

主な医療的ケア

医療的ケアと一口にいっても、その内容は多種多様です。代表的なケアとしては以下のものが挙げられます。

  • たんの吸引
    気管や気道にたまったたんを取り除くことで、呼吸を確保します。特に人工呼吸器を使用する子どもでは、定期的に行う必要があります。

  • 経管栄養
    口から飲食できない、または十分な栄養を摂取できない場合に、胃や腸に直接チューブを通して栄養を送ります。

  • 人工呼吸器の使用
    自発呼吸が困難な子どもに必要な機器で、在宅医療でも使われます。停電時の対応や機器の定期メンテナンスなど、日常管理に多くの配慮が必要です。

  • 酸素療法
    酸素濃縮器などを使用し、酸素を投与して体内の酸素飽和度を維持します。呼吸機能が低下しやすい子どもにとって、重要な役割を果たします。

統計データと背景

医療的ケア児の人数は年々増加しており、NICUの技術発展が大きく貢献していると考えられます。加えて、社会環境の変化により共働き世帯が増え、在宅での医療的ケアをこなしながら仕事や家事、育児を両立することが以前にも増して難しくなっています。こうした背景を踏まえて、自治体や国が支援策を検討・実行している状況です。

医療的ケア児を支える人々

医療的ケア児を支えるためには、専門知識を有する医療従事者だけでなく、保育士や地域の福祉サービス、さらには企業やボランティアを含めた多様な人々の力が欠かせません。ここでは、保育士や看護師の具体的な役割と、福祉サービスとの連携を中心に紹介します。

保育士・看護師の役割

保育園や学校で医療的ケア児が安全に過ごすためには、保育士や看護師の存在が不可欠です。保育士は子どもが楽しみながら学べるよう環境を整えつつ、緊急時には看護師と連携し必要な対応を行います。看護師は、日常的なバイタルサインのチェックやたんの吸引、人工呼吸器の管理など専門的なケアを担当し、医師の指示や保護者の要望にも配慮しながら子どもを見守っています。互いに情報を共有しながら協力することで、医療と教育のバランスを取った支援が可能になります。

福祉サービスと地域連携

医療的ケア児を支える福祉サービスとしては、訪問看護や重症心身障害児対象のデイサービス、短期入所などが挙げられます。これらのサービスは家庭の負担を軽減し、子どもが多様な体験を得られる機会を広げる役割を担っています。特に地域の相談窓口は、医療的ケア児の家族が直面している問題を相談できる場所であり、行政や医療機関、特別支援学校など、さまざまな機関と連携を取るハブのような存在でもあります。

医療的ケア児支援の課題と解決策

医療的ケア児を取り巻く環境は、法律の整備や支援サービスの拡充によって改善しつつありますが、まだ解消されていない問題も多くあります。ここでは、地域格差や家庭への負担など、代表的な課題とそれに対する取り組み例を見ていきます。

地域格差の問題

医療的ケア児への支援体制は、都市部と地方部とで大きく異なることがあります。都市部では病院や福祉施設が比較的充実している一方、地方では受けられるサービスが限られ、緊急時の対応が難しい場合もあります。こうした地域格差を是正するためには、遠隔医療の導入や移動看護ステーションの設置など、地域の実情にあった施策が必要です。各自治体の財政事情によって取り組みのスピードや内容に差が出るため、国による財政支援やガイドラインの提示も望まれます。

家庭への負担軽減

24時間体制のケアが必要な子どもを自宅で看る場合、家族、とりわけ母親や父親が常に医療対応を学びつつ生活することになります。夜間の呼吸器アラーム対応や、痰の吸引など、睡眠時間の確保が難しい状況が続くことも珍しくありません。これに対しては、短期入所施設の利用や、夜間巡回型の訪問看護を活用するなどの方法があります。また、家族同士の情報交換や支え合いを目的とした「ピアサポート」も注目されています。似た境遇の家族間で悩みを共有することで、精神的負担の軽減が期待できます。

医療的ケア児の推移データ

医療的ケア児の推移

医療的ケア児の在宅推計人数は、この15年で大きく増加しています。平成17年(2005年)には約9,987人と推定されていましたが、令和3年(2021年)には約20,180人と、ほぼ2倍以上に増えています。以下の表は、平成17年から令和3年までの人数推移を示したものです。

年度 医療的ケア児数(人)
H17 9,987
H18 9,967
H19 8,438
H20 10,413
H21 13,968
H22 10,702
H23 14,886
H24 13,585
H25 15,892
H26 16,575
H27 17,209
H28 18,272
H29 18,951
H30 19,712
R1 20,155
R2 19,238
R3 20,180

この急増の背景には、医療技術の進展があります。特にNICU(新生児特定集中治療室)の発達により、重篤な疾患を持つ新生児が救命されるケースが増加しています。その結果、これまでは生存が難しかった子どもたちが、医療的ケアを必要としながらも家庭で生活できるようになりました。しかし、この増加は同時に家庭や地域社会における支援体制の重要性を浮き彫りにしています。

情報源 : 医療的ケア児について

医療的ケア児支援法の今後の展望

医療的ケア児支援法は、子どもと家族が暮らしやすい社会づくりに重要な役割を果たしていますが、変化するニーズに合わせて柔軟な対応が求められる場面も増えてきています。ここでは、さらなる法改正の必要性と社会全体での支援体制の強化について考えます。

さらなる法改正の必要性

医療的ケア児支援法により、多くの自治体で保育や教育、在宅医療体制の充実が進められています。しかし、地域差の改善にはまだ課題が残っています。遠隔医療やICTを活用したオンライン診療システムへの補助など、医療のデジタル化を推し進める法整備が必要とする声も上がっています。また、医療機器の購入やレンタル費用に対する助成制度の統一化、家族が離職を余儀なくされないための就労支援など、現場のニーズに即した改正が期待されています。

社会全体での支援体制の強化

医療的ケア児を支援するのは医療や福祉の専門家だけではありません。企業や学校、地域コミュニティも含めた社会全体の協力が欠かせない状況です。企業が医療的ケア児の保護者を積極的に雇用しやすい環境整備や、職場でのテレワークやフレックスタイム制度の推進は、家族の生活を安定させるうえで有効です。さらに、地域のイベントや子育てサークルでの医療的ケア児と家族の受け入れ体制を整えることで、孤立感を減らし、地域に根ざした包括的な支援へとつながります。

まとめ

医療的ケア児とは、日常的に医療的なケアを必要とする子どもたちを指し、彼らが安心して生活するためには多くの支援が必要です。医療的ケア児支援法の制定により、支援の仕組みが整いつつありますが、地域格差や家庭への負担といった課題も残されています。今後は、社会全体での協力を通じて、医療的ケア児とその家族がより良い生活を送れる環境の構築が期待されます。

参考リンク

以下は信頼できる情報源です。制度や実際のサービス利用方法を確認する際の参考になります。

  1. 厚生労働省 医療的ケア児支援情報
  2. 東京都 医療的ケア児支援ページ
  3. 大阪市 医療的ケア児支援センター
  4. 神奈川県 医療的ケア児支援ページ
  5. 福島県 医療的ケア児支援センター
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